転生したのに0レベル
〜チートがもらえなかったので、のんびり暮らします〜


152 教科書は本より安いけど、やっぱり高かったんだ



「そんな事は別に気にしなくてもいいのに」

 バーリマンさんが魔法陣の教科書を買うって言うのを僕が止めると、バーリマンさんはちょっと苦笑いしながらそう言ったんだ。

「でも魔道具の本を買ってもらった時だって、あんまり高くって僕、びっくりしたもん。魔法陣の本だって同じ位するんでしょ? なら絶対ダメだよ」

 でもやっぱりそんな高い物を買ってもらうわけには行かないから、僕はダメって言ったんだよね。

 ところがそんな僕に、ロルフさんまで苦笑い。

「ふむ。ルディーン君は少々勘違いをしておるようじゃな。確かに本は高い。じゃが書店で売られているものと違い、教科書は比較的安価で手に入るようになっておるのじゃよ」

 どうもロルフさんたちが言ってる教科書と僕が言ってる本とはちょっと違ったみたいなんだ。

「えっ? 教科書って、本屋さんで売ってるのより安いの?」

「うむ。書店で売られているものとは、ちと違う考えの下で書かれたものじゃからな」

 ロルフさんが言うには、本屋さんで売ってる専門書には1冊だけである程度の魔法陣が描けるようになるだけの内容が載ってるんだけど、学校で使う教科書は習う人のレベルに合わせた分だけの内容しか載って無いらしいんだよね。

「確かに学校を卒業するまでに必要な教科書を全てそろえれば書店で売られている専門書よりも高額になるであろう。じゃが、今わしらが取り寄せようとしておる教科書は本当の初歩。習い始めたばかりの学生が勉強する基礎とその簡単な応用が書かれているだけのものなのじゃよ」

 魔法陣の学校と言うだけあって、習う人のレベルに合わせた授業があるんだって。

 だからそれに合わせていろんなレベルの人でもきちんと理解できるように、教科書はなるべく解りやすくなるようにって細かく何冊かに別けられてるらしいんだ。

「書店だとそのように細かく分類してしまうと、それだけで倉庫を圧迫してしまうでしょ。だからある程度のレベルまでの知識を詰め込んだ本を売らないといけないけれど、学校では今覚えるべき物だけを詳しく説明された物を使ったほうが教えやすいのよ。それに細かく別けておけば、例えお金があまり無くても初歩の魔法陣の書き方を覚え、それを使ってお金を稼げば次の段階の教科書を買うことができる。学校ではこうやって得た知識を使って働きながら更に深く学んでいる人も多くいるわ」

 そこまで言われて僕は前世の学校もそんな感じだったなぁって思ったんだよね。

 確か小学校って所から勉強を始めたはずなんだけど、そこだけでも全部の教科が学年ごとに1冊ずつ、6冊の教科書に別れてたっけ。

 なのにその小学校ってとこはあくまで一番最初に覚えないといけない初歩の事しか教えてなくて、その上には中学校や高校、それに大学ってとこまであったんだよね。

 その全部の教科書をあわせたら物凄い数になってたもん。

 そう考えたら、教科書が本屋さんに売ってるのより詳しく無い変わりに安いって言うのが、なんとなく解る気がしたんだ。

「そうなんだ。でも、それだって魔法陣の事が書かれてるご本なんだから高いんでしょ? やっぱり10万セント位するんじゃないの?」

 でもさ、それでも本である以上はきっと高いと思うんだよね。

 だって全部の本は1冊ずつ手書きで写されてるんだから、いくら書かれてる内容が少なくなってたってすごく安くなってるはず無いもん。

 それに確か錬金術とかの専門書を本屋さんで買ったときは60万セントくらいしたはずなんだよね。

 そう考えると、それくらいしたっておかしくないと思うんだ。

「10万セント? いやいや、初歩の段階でそこまで高かったら、学ぼうなどと誰も思わぬじゃろう」

 ところが、僕が言った金額を聞いたロルフさんは、そんなにするはず無いよって言ったんだよね。

「そうよ、ルディーン君。魔法陣を習ったと言っても、それはあくまで学園の一教科として学んだだけですもの。学園には授業料も必要なのだから、1科目の教科書だけでそんなにするようなら貴族でも殆ど人は学園に通う事ができなくなってしまうわ」

 そう言えば教科書って学校で使うものなんだから、それだけでそんなにしたら通える人が殆どいなくなっちゃうか。

「そっか。僕、間違えちゃった」

 ロルフさんたちが言うには、確かに学園に通うには1年で10万セントくらいはかかっちゃうらしいんだ。

 けどそれはいろんな授業があるからで、1教科ずつで考えたらそれぞれの私塾に通うよりも安いんだってさ。

「そうじゃのぉ、魔道具や錬金術での飲み込みの速さから考えると、2学年くらいの教科書をそろえるべきかのぉ」

「そうですね。そう考えると1万6千セントくらいでしょうか」

 金貨1枚と銀貨60枚、前世のお金で言うと16万円くらいか。確かに思ったよりも安いけど、それでもやっぱり高いんだね。

 でもそうなると、やっぱりロルフさんたちに出してもらう訳にはいかないなぁ。

「やっぱり高いじゃないか。僕のギルド貯金にはそれくらいのお金、入ってるってお父さんが言ってたもん。ちゃんと使っていい? ってお父さんに聞かないとダメだけど、言えばいいって言ってくれるはずだからその金は僕が払うよ」

 お父さんもお母さんも、何に使うかをきちんと話したらお金を使ってもいいって言ってたもん。

 前にお父さんとイーノックカウに来た時も本屋さんで魔道具の本を買っていい? って聞いたらいいよって言ってくれたんだから、それより安い教科書なら絶対大丈夫だからね。

「ふむ。この程度の金額であれば、色々な実験に付き合ってもらっておるのじゃからわしらが出しても別に良いのじゃが」

「そうですわね。ルディーン君には色々なお手伝いをしてもらっているのだし、そのお礼にと思っていたのですけど」

「だめだよ。さっきロルフさんも言ってたじゃないか! ちゃんとお金を払わないと、次に何か頼みたい時に頼みにくくなるって」

 どっちかって言うと二人は僕に買ってあげたいって感じだったんだけど、さっきロルフさんが言った事を持ち出したら、やっと納得してくれたんだ。

「解ったわ。それでは教科書の分は後でルディーン君から頂く事にしましょう。でも、勉強に必要な道具は此方で用意するわよ。これは新たに買うわけじゃなく、私が持っているものを貸すだけですから」

「いいの?」

「ええ。ルディーン君もいずれは自分の物を買わないといけないでしょうけど、それは予めどう言う物が自分にあってるかを確かめてからの方がいいでしょ? だから最初は、借りた物を使うほうがいいのよ」

 そっか。道具を買うにしても、確かに自分で使ってからの方がいいよね。

 だっていきなりお店に買いに行っても、使ったこと無かったらどれがいいのかなんて解んないもん。

「ありがとう。じゃあ貸してもらう事にするね」

「ええ。教科書と一緒に一通り準備しておくわ」

 こうして僕はバーリマンさんに魔法陣の書き方を習うだけじゃなく、いろんな道具まで貸してもらうことになったんだ。


「そうだ。ルディーン君。お家に帰ったら、一度お父さんに錬金術ギルドまで来てもらえるようにって頼んでもらえないかしら?」

「お父さんに?」

 馬車を呼びに行ったストールさんが帰って来たから、それに乗って東門の外にあるロルフさんのお家に帰ろうとしたんだけど、そしたらバーリマンさんに呼び止められてこんなお願いをされたんだよね。

「ええ。本当なら私ではなく、ルディーン君のお父さんをよく知っている冒険者ギルドのギルドマスターと話をしてもらうはずだったんだけど、ロルフさんと話し合って私が話す事になったのよ」

 わざわざロルフさんとお話して決めたって事はとっても大事なお話なんだよね? 一体どんな話なんだろう?

 そう思った僕はバーリマンさんにどんなお話なの? って聞いてみたんだ。

 そしたら、お金のお話なんだって。

「ルディーン君のお金の管理はご両親がなさっているでしょ? だから一度お会いして話さなければいけない事があるのよ」

 なんか、前にいろんなお金が僕に入るって話はしてあるみたいなんだけど、その詳しい事が決まったからそれをお父さんかお母さんに話さないといけないんだって。

 でも、お母さんは僕が作ったお肌つるつるポーションや髪の毛つやつやポーションで綺麗になっちゃってるのをイーノックカウの知り合いに見られると今はまだ困っちゃう事になるかもしれないから、お父さんに来て欲しいんだってさ。

「うん、解った! 帰ったらお父さんに言っとくね」

 そういう事ならちゃんとお話しないといけないよね。

 だから僕は、ちゃんとお父さんたちに帰ったら言うよって約束をして、ロルフさんの馬車に乗り込んだんだ。


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